会長挨拶
有冨 正憲
ARITOMI Masanori
私は、昨年度、井小萩前会長の下で筆頭副会長として本学会について勉強して参り、8月の総会にて会長に就任致しました。
私と日本混相流学会との係わりは、30年ほど前に遡り、博士課程の学生の時でした。私は、沸騰二相流の不安定流動に関する研究を行っておりましたが、私の恩師である故青木成文先生に、日本機械学会関西支部の「気液二相流懇話会」で研究成果を発表し、不安定流動の研究に関する我が国の第一人者であられた赤川先生に評価してもらいなさいと命じられました。懇話会では、若い研究者の研究に真剣に耳を傾けて戴き、励ましと、研究の方向性への適切な助言を承り、その後、私は自信を持って研究を続けることができました。当時、日本伝熱学会の前身であった日本伝熱研究会は熱流体工学分野で飛ぶ鳥を落とす勢いであり、伝熱や相変化を含まない気液二相流の研究成果は、日本伝熱シンポジウムから排除されそうな状況でした。そこで、「気液二相流懇話会」の機械工学、化学工学と原子力工学の分野のメンバーを中心に、土木工学、医学など幅広い分野の混相流を学問の基盤とする研究者と技術者が一堂に集まる学会として日本混相流学会が誕生し、私も馳せ参じました。
日本混相流学会の発足当時は、原子力発電所、即ち、軽水炉の安全性評価を行うための実規模大の実証試験や安全解析コードの開発、並びに、サンシャイン計画やムーンライト計画に代表される新エネルギー開発などの大型プロジェクト研究が推進され、大学や研究機関、民間会社などで活発に研究が行われ、多くの優れた研究成果が上げられました。
ステムなどの開発を目的とし、それらの設計に必要なデータを取得するための実験的研究と、設計や安全解析に必要な数値解析コードを開発するために必要なモデル化と数値解法に関する研究が行われてきました。しかし、今日ではこれらの大型のプロジェクトは終了して、研究の方向が、物づくりから学術的な基礎研究へとシフトとしてきました。そのため、大学における研究は活発に行われておりますが、物づくりと直結した研究が少なくなったため、民間企業においては混相流の研究を重点的に行うことが困難になり、学会そのものの活動が曲がり角に突き当たっております。
今ここで、会長として1年間、学会のために何ができるかを皆様に約束することはできませんが、環境、バイオ、ナノテクなどのキーワードの下に、日本混相流学会から発信できる新しい物づくりとその基盤となる学問の深化を目指して、新たな研究課題を掘り起こし、国家プロジェクト研究の創出への提言がとりまとめられるように、会員の皆様と努力して行きたいと考えます。従来、本学会のみならず、理工系の学会は、会員の研究成果を議論し、広めるという受身的な役割を担っておりましたが、今後の学会のあり方として、新しい研究分野を創出し、産業界の新しい物づくりに役立ち、技術立国としての我が国の発展に少しでも寄与できればと念じております。そして、本学会のアイデンティティーの確立、並びに、財政的な改善に結び付けられるよう努力していく所存でおります。
内藤正則筆頭副会長、清水昭比古、村瀬道雄両副会長らとともに1年間学会の運営をさせて戴きます。会員の皆様よろしくお願い申し上げます。
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